はじめに
ネットショッピングは便利で楽しく、今や私たちの日常に欠かせない存在となりました。
しかしその一方で、「商品が届かない」「違うものが届いた」「詐欺サイトだった」といった、思いもよらないトラブルも数多く報告されています。
そんな中、ある方の体験が、私たちに大切な教訓を教えてくれます。
商品が届かず、何度連絡しても販売者から返事がない――。困り果てたその方は、ついにカード会社に電話をし、「返金してほしい」と繰り返し訴えました。ところが返ってきたのは、冷たい一言。「それはできません」。何度かけ直しても、対応は変わりませんでした。
暖簾に腕押し。言いようのない焦りと不安が募り、「このまま泣き寝入りなのか」と諦めかけたその方は、藁にもすがる思いでネット情報を調べ、再びカード会社に電話をかけます。もう一度返金を要請してみましたが、やはり「それはできかねます」の一点張り――。そのとき、ネットに載っていた一言を口にしました。
「では、チャージバックを申請したいのですが」
その瞬間、空気ががらりと変わりました。。
担当者が別の者に代わり、口調も対応も一変。「では、詳細をお伺いします」と手続きの案内が始まり、最終的にチャージバックの申請が受理されたのです。
この実例が示すように、「チャージバック」という言葉には重みがあります。
これは、カード会社が正式に契約している国際ブランド(Visa、Mastercard、JCB など)の規定に基づく制度であり、単なる「返金希望」とは異なる、正式な支払取消手続きです。
カード会社の内部でも、別枠の「特別な対応」として扱われます。
つまり、この制度を知っているかどうかだけで、対応も、結果も、大きく変わってしまうのです。
~補償期間は60日間が一般的であることをご存じですか?~
クレジットカードが不正使用された場合、多くの人が「90日間以内なら補償される」と思い込んでいます。
しかし実際には、「不正使用に気づいてから60日以内」でないと補償されないケースがほとんどです。
この誤解の原因は、「申告期限」と「補償対象期間」を混同していることにあります。
詳しい内容は、本文中の「第3章 カード会社の補償制度(不正利用保険)」で詳しく解説します。
この『通販の心得』では、ネット通販でトラブルが起きたときに、泣き寝入りしないための対処法を、消費者の立場からわかりやすく解説しています。
泣き寝入りしないために。そして、被害を最小限に抑えるために――。
ネットショッピングを安心して楽しむための「心得」として、ぜひお役立てください。
1.返金
「返金」は、販売元に直接連絡して代金を返してもらう方法です。商品に不具合があったり、誤った商品が届いたりした場合など、まずはこの方法が基本となります。
販売者の返品・返金ポリシーを確認したうえで、注文番号や理由を明記し、メールや問い合わせフォームから連絡します。商品の状態を撮影した写真を添えると、対応がスムーズになります。
多くのショップは、正当な理由があれば返金や交換に応じてくれます。返金依頼の際には、感情的にならず、丁寧な言葉遣いでやり取りすることが大切です。
~返金を求めるメール文(例)~
メールには、写真・配送伝票・開封動画などの証拠を添付します。相手が対応しない場合、同じ文面を使ってカード会社へのチャージバック申請資料にも使うことができます。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
件名:注文商品の返金についてのお願い(注文番号:12345)
○○様(または「ご担当者様」)
お世話になっております。貴店の通販サイトにて、下記のとおり商品を注文させていただきました○○(ご自身の名前)と申します。
■注文番号:12345
■注文日:2025年6月15日
■商品名:△△△
■金額:○○円
しかしながら、商品が【破損した状態で届きました/未だに届いておりません】。
現時点では大変残念ながら、当方としては受領・使用ができる状況ではありません。
つきましては、返金対応をお願いしたくご連絡いたしました。破損状況がわかる写真(または、配送記録)なども添付しておりますので、あわせてご確認ください。
何らかの対応を【●月●日】までにご案内いただければ幸いです。
誠意あるご対応をお願い申し上げます。
氏名:○○ ○○
住所:〒123-4567 東京都××区…
電話番号:090-××××-××××
メール:yourmail@example.com
ご多忙のところ恐れ入りますが、どうぞよろしくお願いいたします。
○○ ○○(署名)
2.チャージバック
ネットショッピングなどでカード決済をした際に、詐欺だった、商品が届かない、二重請求された、といったトラブルが起きた場合、クレジットカード発行会社に申請して支払いを取り消してもらう制度が「チャージバック」です。
(1)チャージバックは国際ブランドの規約に基づく制度
チャージバック制度は、Visa(ビザ)・JCB・Mastercard(マスターカード)・American Express(アメリカン・エキスプレス)・Diners Club(ダイナースクラブ)など、主要な「国際ブランド」が加盟店と締結する規約の中で明記され、運用されています。「国際ブランド」とは、クレジットカードの使い方や安全対策、為替レートなどの世界に共通のルールと、決済ネットワークを提供しているVIZA・JCBなどの企業を指す言葉です。
クレジットカードの発行会社(カード会社)は、「国際ブランド」との契約により、カード会員(消費者)からのチャージバック申請に対応する義務があります。
この制度により、消費者は、商品が届かない・偽物だった・二重請求されたなどのトラブル時に、カード会社に支払いの取消し(チャージバック)を申し立てることができます。
申請を受けたカード会社は、加盟店との契約に基づいて販売者側に調査や返金の対応を求め、必要に応じて代金の返還処理を進めます。
加盟店はチャージバックが発生した場合、カード会社や「国際ブランド」の指示に従い、返金や調査に応じる義務があります。
また、チャージバックは加盟店にとっては、単なる返金要求ではなく、「信用問題」そのもので、「カード会社から正式に取引を否認された」=「不正取引やトラブル販売と認定された」という意味を持ちます。
その結果、以下のようなリスクやペナルティが発生する可能性があります:
・「国際ブランド」からの加盟店信用スコアの低下
・一定回数以上チャージバックが発生すると、「高リスク加盟店」として監視対象になる
・最悪の場合、決済契約の打ち切りや強制退会のリスクがある
・取引額に応じて罰金や追加手数料が発生する
そのため、多くの加盟店は「チャージバック」を避けたがります。このような事情から、消費者からの「チャージバックの可能性を示す交渉」には比較的柔軟に応じて、返金してくる傾向があります。消費者から見ると「返金」と「チャージバック」は似た手続きに見えますが、カード会社の対応は大きく異なります。
例えば、「はじめに」でご紹介したように、「返金してほしい」と言ったときは動いてくれなかったのに、「チャージバックを申請したい」と伝えた瞬間に、担当者が代わって迅速に対応してくれた――という実例もあります。それだけ、チャージバックは正式で重みのある制度的対応であり、カード会社にとっては内部での扱いも「返金」とはまったく異なるのです。
ただし、これは、そもそも、最初から詐欺目的で開設された悪質な通販サイトや、実態のない偽ショップに対しては、販売者との交渉や返金依頼といった通常の手続きでは効果が期待できない場合がほとんどです。このような場合は、カード会社へのチャージバック申請、警察や消費生活センターへの通報・相談など、第三者機関の関与が必要になります。また、これらのサイトでは「連絡先が虚偽」「問い合わせに応じない」「日本語が不自然」「極端に安い価格設定」などの特徴が見られることが多く、利用前の見極めが何よりも重要です。
(2)チャージバックの申請方法と条件
チャージバックの申請には、次のような条件が必要です:
・通常、支払日から60日〜120日以内に申請(カード会社によって異なります)
・正当な理由(未着、二重請求、詐欺など)
・販売者に連絡した証拠(メール、問い合わせ履歴、商品ページのスクリーンショットなど)が必要
*カード会社によって調査にかかる時間は異なりますが、通常1〜2か月程度かかることがあります。
(3)PayPal (ペイパル)の場合:二重の補償が可能
PayPal(ペイパル)は、世界中のECプラットフォームで採用されており、国際間のBtoC(企業と個人間)取引において広く利用されている決済方法です。
PayPalでは、独自の「買い手保護制度」が設けられており、商品が届かない場合や、説明と著しく異なる商品が届いた場合などに、PayPalが購入者と販売者の間に介入し、全額返金を受けられる仕組みがあります。
さらに、PayPalでの支払いにVisaやJCBなどのクレジットカードを使用していた場合、PayPalの補償に納得できないときでも、カード会社にチャージバックを申請することが可能です。
このように、PayPalを経由したカード決済では、「PayPalの購入者保護」+「カード会社のチャージバック」という二重の補償制度が働くため、消費者にとって非常に安心感のある支払い手段といえます。
一方で、販売者にとっては手数料がやや高めであり、また海外の購入者には為替手数料(約3〜4%)が加算される点は留意すべきデメリットです。ただし、PayPalの購入者保護制度が明確に機能している点は、消費者からの信頼につながっています。
(4)PayPay (ペイペイ)の場合:チャージバックは不可
一方、PayPay(ペイペイ)決済の場合は、チャージバック制度は適用されません。なぜなら、PayPayはクレジットカードを通さない独自のQRコード決済であり、カードの安全使用やトラブル処理方法などを決め、決済ネットワークを提供しているVIZAやJCBなどの「国際ブランド」によるチャージバックルールが働かないためです。
ただし、PayPayにも「不正利用補償制度」があり、第三者による不正使用があった場合、所定の手続きにより補償されるケースがあります。ただし、これはあくまでPayPay独自の任意補償であり、チャージバックとは別物です。
(5)支払い方法の選び方でリスク回避
チャージバックや補償制度の有無・強さは、決済する方法によって大きく違ってきます。したがって、次の点を意識するようにしましょう:
・VIZA、JCBなどの「国際ブランド」付きのカードを利用する
・PayPalなどの買い手補償が明確で、カードの補償制度も利用できる決済手段を選
ぶ
・万一の際に備えて、連絡履歴や証拠は残しておく
チャージバックは、VIZAやJCBなどの主要な「国際ブランド」が明確に制度として定めており、消費者にとって大きな味方です。特にネットショッピングでの高額決済や信頼性が不透明なサイトを利用する際には、「チャージバックが使える支払い手段」を選ぶことが、最も有効な自衛手段となります。被害を未然に防ぐためにも、支払い方法の選び方にぜひ注意を払ってください。
3.カード会社の補償制度(不正利用保険)
カードを紛失したり、盗難に遭ったり、あるいはカード情報が盗まれて第三者に不正に使われた場合は、カード会社の「不正利用補償制度(保険)」を利用することができます。これは、カード会社が独自に用意している保険制度で、ほとんどのクレジットカードに自動的に付いています。
被害に遭った場合、各社とも「申告期限」と「補償対象期間(起算点)」を設けています。申告期限を過ぎると、受付さえしてもらえないことも起きます。注意しなければならないのは、殆どの場合、補償対象期間が60日以内となっているので、身に覚えのない請求が利用明細に表示されたり、カードを紛失したりした場合は、速やかにカード会社に連絡しなければなりません。
~カード各社の不正使用申告期限と補償対象期間~
カード会社名 | 申告期限 | 補償対象期間(起算点) |
三井住友カード(Vpass) | 不正使用を知った日または利用日から 90日以内に申告のこと。 | Vpass等での申告日から さかのぼって60日以内 の利用分。 |
JCBカード | JCBが会員にWebまたは郵送で明細を通知した日から 60日以内に申告のこと。 | ●紛失・盗難時:届出日から さかのぼって60日以内の利用分。 ●なりすましやカード情報漏洩:明細通知日から60日以内にJCBへ申告し、かつその明細に不正利用が記載されていれば、補償される可能性がある。 |
楽天カード | 不正使用を知った日から:盗難は30日以内、それ以外の場合は60日以内に申告のこと。 | 届出日から さかのぼって60日以内 の利用分。 |
セゾンカード(クレディセゾン) | 不正利用に気づいた日から60日以内に調査申込みのこと。ただし、補償対象は申込日からさかのぼって60日以内の被害のみなので、早めに申し出ること。 | 調査申込日から さかのぼって60日間以内(当日含む) の利用分。 |
アメリカン・エキスプレス | 不正利用に気づいた日から60日以内に不正利用の申告をすること。ただし、補償対象となるのは、申込日からさかのぼって60日以内(当日含む)の被害に限られるため、早めに申し出ること。 | 不正利用の申告日から さかのぼって60日以内 の利用分。 |
いずれにしても、日ごろから明細をこまめに確認し、不審な請求を見つけたらすぐに連絡することが最も重要です。補償されるかどうかは、申告のタイミング、証拠、そして各社の契約条件によって判断されますので、あらかじめ契約内容を確認しておきましょう。カードの盗難の場合は、警察への盗難届けは必須要件です。
4.公的機関への通報・相談
深刻な被害や悪質なケースに遭遇した場合には、次のような公的機関に相談・通報することを強くおすすめします。
~通報・相談先リスト~
機関名 | 内容 | 連絡先 |
消費生活センター | 通販・金銭トラブル相談 | 188(いやや) 地方自治体(都道府県・市区町村)が管轄している住民のための相談センター。 |
国民生活センター | 広域的・高度な相談が対象で、 | 内閣府管轄の独立行政法人で、全国の消費生活センターの支援や相談情報の収集・分析・公表などを行っています。 https://www.kokusen.go.jp/ 03-3446-0999(相談専用) |
東京都警視庁サイバー犯罪対策課 | 詐欺的通販サイトの通報 | https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/ 電話:03-3581-4321(代表) |
神奈川県警察本部サイバー犯罪対策課 | 詐欺的通販サイトの通報 | https://www.police.pref.kanagawa.jp/ 電話:045-211-1212(代表) |
千葉県警察本部サイバー犯罪対策課 | 詐欺的通販サイトの通報 | https://www.police.pref.chiba.jp/ 電話:043-201-0110(代表) |
埼玉県警察本部サイバー犯罪対策課 | 詐欺的通販サイトの通報 | https://www.police.pref.saitama.lg.jp/ 電話:048-832-0110(代表) |
大阪府警察本部サイバー犯罪対策課 | 詐欺的通販サイトの通報 | https://www.police.pref.osaka.lg.jp/ 電話:06-6943-1234(代表) |
京都府警察本部サイバー犯罪対策課 | 詐欺的通販サイトの通報 | https://www.pref.kyoto.jp/fukei/ 電話:075-451-9111(代表) |
兵庫県警察本部サイバー犯罪対策課 | 詐欺的通販サイトの通報 | https://www.police.pref.hyogo.lg.jp/ 電話:078-341-7441(代表) |
奈良県警察本部サイバー犯罪対策課 | 詐欺的通販サイトの通報 | https://www.police.pref.nara.jp/ 電話:0742-23-0110(代表) |
*上記以外の各府県警のサイバー犯罪対策課のURLと電話番号は、ネットでお調べください。
(1)消費生活センター(地方)と国民生活センター(国)
消費生活センターは、地方公共団体(都道府県・政令指定都市・中核市・一部の市区町村)などが設置しており、ネット通販や金銭トラブルなど、消費者の身近な問題に関する相談を受け付けています。
電話番号「188(いやや)」にかけると、自動的にお住まいの地域の最寄りの消費生活センターにつながります。専門の相談員が対応してくれるため、泣き寝入りする前に、まずは気軽に相談してみることが大切です。
一方、国民生活センター(独立行政法人)は、地方の消費生活センターでは対応が難しい広域的・専門的な相談や、複雑なトラブルへの対応を行っています。また、全国の消費生活センターを支援し、商品テストや注意喚起、消費者教育なども担っています。
(2)警察のサイバー犯罪相談窓口
詐欺的なサイトを利用してしまった場合など、明らかに悪質なケースでは、警察のサイバー犯罪相談窓口への通報が必要です。各都道府県警にはサイバー犯罪対策室が設置されており、状況に応じて刑事事件として捜査が行われる可能性もあります。
5.まとめ
~クレジットカード利用時のトラブル対応フロー~
トラブルの内容 | 初動対応 | 次の一手 |
商品が届かない(商品不着) | 販売者に返金を申請 | 応じない場合は、カード会社にチャージバックを申請 |
詐欺サイトでの購入 | カード会社にチャージバックを申請 | 必要に応じて警察へ通報 |
カードの不正使用 | カード会社に補償を申請 | 消費生活センターなど消費者相談窓口に相談 |
商品の破損 | – 販売者に返金を申請 - サイトの補償制度を確認・利用 – 応じない場合はカード会社にチャージバックを申請 | 証拠(写真・交渉記録など)を提出して再交渉。応じない場合は左記対応を検討 |
ネットショッピングでトラブルが起きたときは、次の手順で対応を検討しましょう。
(1)まずは販売者に連絡し、返金を依頼
(2)販売者が応じない場合は、カード会社にチャージバックを申請
(3)第三者による不正利用が疑われる場合は、カード会社の補償制度を活用
(4)解決が難しい場合は、公的機関(消費生活センター・警察など)に相談・通報
トラブル対応の三原則:
・証拠を残すこと(スクリーンショット・メール記録・商品写真など)
・早めに動くこと(補償やチャージバックには期限があります)
・冷静に対応すること(感情的にならず、事実を整理して行動)
ネット通販は便利である一方、販売元の信頼性を見極めるのが難しく、最近では購入の途中で偽サイトに誘導されるなど、新たな手口も増えています。だからこそ、万が一の事態に備えて、「返金交渉」「チャージバック」「補償申請」の三つの対応方法と、相談先(消費生活センター、国民生活センター、警察など)を知っておくことが大切です。
被害を最小限に抑えるには、知識・証拠・冷静さの三つがカギになります。
この「心得」が、皆さまのネットショッピングをより安心・安全なものにする一助となれば幸いです。
以 上